Works Index の開発
-「全国就業実態パネル調査 2016」を用いて-
久米
功一
リクルートワークス研究所・主任研究員/主任アナリスト
萩原
牧子
リクルートワークス研究所・主任研究員/主任アナリスト
戸田
淳仁
リクルートワークス研究所・主任研究員/主任アナリスト
孫
亜文
リクルートワークス研究所・アシスタントリサーチャー
清水
千弘
リクルートワークス研究所・客員研究員
本稿では,日本における働き方の質と量を計測・評価する指標として,リクルートワークス研究所が新たに開 発した「Works Index(ワークス インデックス)」について,その背景,コンセプト,作成手順,結果の概要を説 明する。具体的には,Works Indexは,五つのIndex(就業の安定,生計の自立,ワークライフバランス,学習・ 訓練,ディーセントワーク)から構成されるが,それらの一部は現状の働き方においてはトレードオフの関係に あることが示された。このことは,働き方はさまざまな側面から評価する必要性を示しており,Works Indexが 提示している五つの観点が,働き方を多元的に評価して議論する上で有益であることを示唆している。
キーワード:Index,Indicator,働き方
目次
Ⅰ.はじめに―なぜIndexが必要か Ⅱ.先行研究とIndexの作成方法 Ⅲ.Works Indexの概要
Ⅲ-1. コンセプト,フレームワーク Ⅲ-2. 構造,内容,計測と尺度 Ⅲ-3. 基準化,ウェイトと集計 Ⅲ-4. Indicatorの検証
Ⅳ.Works Indexの結果 Ⅳ-1. 結果 Ⅳ-2. 妥当性 Ⅴ. おわりに
Ⅰ.はじめに
―
なぜ
Index
が必要か
日本における働き方の実態はどうなっているの
か。少子高齢化が進む日本では,将来の労働力不
足が懸念されており,さまざまな理由で働くこと
ができなかった人びと,とりわけ女性や高齢者の
労働参加に期待が集まっている。しかし,過重労
働も厭わない働き方を前提とする風潮が依然とし
て根強く,一部の壮年労働者への仕事負荷の偏り
は解消されず,新たな労働参加の大きな妨げにも
なっている。
一方,労働市場の二極化が進んでいる。失業不
安や所得低下圧力が強まっており,質のよい仕事
の機会が限られつつある。仕事に就けたとしても,
十分な仕事経験を積めず,能力を発揮できないば
かりか,保障も不十分で,生活に困窮する人さえ
出ている。
働きたくても働けない人びと,望む以上に働か
ざるを得ない人びと,働いても生活に困窮する人
びと,日本の労働市場は,さまざまな側面で,危
機的な局面に立っている。働きたいという意欲を
持つすべての個人が生き生きと働くことができ,
それを生涯にわたって望む限り継続できる社会の
実現が求められている。
の現状を把握し,望ましい方向に向かっているか
を評価することが不可欠である。しかし,労働分
野でよく引用される「労働力調査」「就業構造基本
調査」などの公的統計では,公的統計ゆえに調査
目的や項目が法律で定められ,基本的な状況把握
は可能だが,詳細な実態把握には限定的といわざ
るを得ない。個々の公的統計で働き方のさまざま
な側面を大規模なサンプルに基づいて把握できる
ものの,たとえば就業の安定度合い,学習・訓練
の詳細な情報,労働時間や勤務地の自由度,所得
や生計の自立状態を一つの調査で包括的に把握・
評価することができなかった。
そこで,リクルートワークス研究所では,個人
の就業状態を定点観測・評価して,一人ひとりが
生き生きと働ける次世代社会の構築に向けた道筋
(実態把握と政策的インプリケーション)を示す
べく,働き方の指標であるWorks Indexを開発し,
今後継続して公表していくこととした。本稿では,
Works Indexのコンセプト,作成手順,含意を述
べることによって,Works Indexが国連開発計画
(UNDP)や経済協力開発機構(OCED 2006)を
はじめとして世界で作成されているIndexの流れ
の一つとして位置づけるとともに,Works Index
の理解と利活用を広く促すことを目的とする。
Ⅱ.先行研究と
Index
の作成方法
労働統計は,「国民経済計算(SNA,System of
National Account)」の重要なシェアを持つものの,
最も測定が困難な対象の一つであると認識されて
いる。しかし,所得または労働生産性といった経
済的尺度だけでは労働市場を写像することができ
ないことから,UNDPの「人間開発指数(Human
Development Index, HDI)」,OECDの「より良
い 暮 ら し 指 標 (Better life index)」,Social Progress Imperativeの「Social Progress Index」
などが開発されている。これらは,一定期間にお
ける人びとの活動の質的・量的な側面について,
ある尺度で計測し評価している点で共通している。
雇用・労働のIndexについても,物価統計など
と 同 様 に , そ の 作 成 方 法 に お い て は 要 素 指 標
(Elementary IndexまたはIndicator)から集計し
て 指 数 化 し て い る も の が ほ と ん ど で あ る 。
Johri(2005),Steffgen et al.(2015)には,数多く
の先行研究が示されている。
そのうちの主たるものは,図表1の通りである。
それぞれにIndex化している雇用・労働の側面は
異なるが,Indexが複数のIndicatorから構成さ
れる点は共通している。たとえば,欧州労働組合
研究所(ETUI)のJob Quality Indexは,欧州各
国のマクロデータから,六つのSub-Indexそれぞ
れが,さまざまな複数のIndicatorから構成され
ている。
図表1 雇用・労働関係のIndexの例
European Trade Union Institute (2012) Job Quality Index (JQI)
①Wages②Non-standard forms of employment ③Working time and work-life balance ④Working conditions and job security ⑤ Skills and career development⑥Collective interest representation
OECD (2013) How's Life (well-being in the workplace: measuring job quality)
①Earnings ②Working hours and working time arrangement ③Job security ④Life-long learning ⑤Safety and health at work ⑥Work organisationand content ⑦Workplace relationship ⑧Social security system ⑨Unemployment insurance and other cash income support ⑩Family friendly policy ⑪Pension ⑫Health insurance
OECD (2013) How's Life (Indicators of job demands and job resources)
①Job demands ②Work pressure ③Job resources ④Work autonomy ⑤Learning opportunities ⑥Task clarity ⑦Management practices ⑧Colleagues' support
United Nations Economic Commission For Europe (2010)
①Safety and ethics of employment (a)Safety at work (b)Child labourand forced labour(c)Fair treatment in employment ② Income and benefits from employment (a)Income from employment (b)Non‐wage pecuniary benefits ③Working hours and balancing work and non‐working life (a)Working hours (b)Working time arrangements (c)Balancing work and non‐working life ④Security of employment and social protection (a)Security of employment (b)Social protection ⑤Social dialogue ⑥Skills development and training ⑦Workplace relationships and work motivation (a)Workplace relationships (b)Work motivation The Laekenindicators of job quality (2008)
①Intrinsic job quality ②Lifelong learning and career development ③Gender equality ④Health and safety at work ⑤Flexibility and security ⑥Inclusion and access to the labourmarket ⑦Work organisationand the work–life balance
一般的に,個々の指標をIndicator(インディケ
ーター),その合成指標をIndex(インデックス)
といい,その他のIndexも同様に,3~10のSub Indexとそれぞれ4~5のIndicatorから構成され
ていた。複数のSub Indexからなる,統合Index
が作成されていない点も留意すべきである。雇
用・労働には多面的な側面があるため,統合Index
そのものは解釈の困難が伴う。複数の,Sub Index
を相対化してバランスで評価するものが多い。
このような整理を見てくると,既存の雇用・労
働におけるIndexは,ほかの経済指標との比較に
おいて,大きく三つの特徴を持つことがわかる。
一つは雇用・労働におけるIndexの観点は多様で
あり,作成者独自の観点が強く求められること,
もう一つは,Indexは複数のIndicatorから構成
されること,最後に,雇用・労働については,Index
間のバランスで評価する(統合Indexを要しない)
ことである。
Ⅲ.
Works Index
の概要
Works Indexは「全国就業実態パネル調査(以
下「就業パネル調査」)」のデータから作成するが1,
その作成手順はOECDのIndicator作成の手順書
<OECD(2006)>に忠実に従った。以下,その概要
を説明する。
Ⅲ-1.コンセプト,フレームワーク
雇用・労働に限らず,指数に代表される経済統
計は,どのようなコンセプトの下で,どのような
対象を測定していくのかを明確に定義することか
ら始めなければならない。そのため,ILO(国際労
働機関)またはOECDなどが出版する公的統計の
国際指針においては,その測定対象を明確に定義
している。
まず,測定対象の決定においては,リクルート
ワークス研究所のミッションである「一人ひとり
が“生き生きと働ける”次世代社会の創造」の実現
に向けて,「生き生きと働く」ために欠くべからざ
る雇用・労働の条件・状態について,所内で議論
を重ねた。その結果,「生き生きと働く」を「安定
性」「経済性」「発展性」「継続性」「健全性」の軸
から把握して,評価することとした。これらの軸
は,現状だけでなく,その状態が「将来も発展的
に持続可能か」という点を重視しているところに
特徴がある。
また,評価基準(指標の選択理由)として,で
きる限り,計測可能で客観的な事実に基づき,作
成することとした2 3。加えて,「就業パネル調査」
が個人調査であることから,個人に立脚し,個人
単位で把握可能な状態に注目した。
前述の五つのIndexによって,個人属性・業種・
職種・雇用形態を問わず,以下にあげるような就
業が成り立つ状態をよいこと(望ましい姿)と評
価した。それぞれの指標は,大きければ大きいほ
どよい,という価値を含んだベクトルである。
安定性:就業の安定(安定的に働いているか)
経済性:生計の自立(自分で働いて得た収入で,
生計を成立させているか)
継続性:ワークライフバランス(働き方を自由
に選び,無理なく働けるか)
発展性:学習・訓練(学ぶ機会・経験があるか)
健全性:ディーセントワーク(職場で,最低限
保障されるべき就業条件が満たされ
ているか)
これらIndexが冒頭で述べた日本における働き
方の課題を点検・評価に資することはもちろんの
こと,独自に五つの軸を抽出した後,その軸が一
般性を備えているか,偏りがないかを検証するた
めに,先行する労働・雇用関係のIndex等との整
合性を確認し,項目の重視度の比較を行った。
具体的には,海外13のIndexとそのIndicator
をリストにして,Works IndexのIndicatorとの
指標の重なりをみて,評価すべき項目の抜け漏れ
Quality Indicator(2008)やOECD(2013)と Works Indexの項目の重なりは,図表2の通りで
ある。こうすることで,先行研究を一通り踏まえ
たうえで,雇用・労働関係の主要項目をおさえる
ことができた。また,Indexのコンセプトに,職
業価値観のような本来的に人びとが仕事に求めて
いる要素が含まれているかについても確認した5。
その結果,上述のWorks Indexの五つの軸は,作
成者の意図を反映するだけでなく,先行研究とも
接続可能な一般性を備えていることが確認できた。
そのうえで,全国約1万2000人を対象としたプ
レ調査にて,五つのIndex間の優先順位を質問し
た6。最も優先順位が高いと答えた割合は,就業の
安定17.0%,生計の自立17.9%,ワークライフバ
ランス22.8%,学習・訓練23.8%,ディーセント
ワーク 18.5%であり,各項目とも 20%前後であ
ることから,五つの軸のウェイトは等しいとみな
してよいと判断した。
図表2 先行研究と Works Index の Indicator の重なりの例
Eu rope an Job Qu ality In dic ator ( 2 0 0 8 )
Ou tlin e for th e de ve lopme n t of a Eu rope an Job Qu ality In dic ator Work Work au ton omy
Physic al workin g c on dition s 〇 He alth implic ations of work ( ph ysical an d psyc h ologic al) 〇 Risks
Pac e of work an d workload Soc ial workin g e nviron me n t
Me an in gf u ln e ss ▲
On - the - job train in g 〇
Work an d e mployme n t Partic ipation 〇
Opportu nities f or advan c emen t 〇
Employme n t Formal train in g 〇
Type of c ontrac t, stability 〇 Workin g h ours Distribu tion of workin g h ou rs ( u n soc ial h ours, c le ar bou n darie s an d f le xibility) 〇
Wage 〇
Soc ial be n ef its 〇
OECD (2 0 1 3 ) H ow's Lif e ( we ll- be in g in th e workplac e : me asu rin g job qu ality)
Earn in gs Ave rage e arn in gs, sh are of low paid worke rs, rate of in -work pove rty 〇 Workin g h ou rs an d workin g
time arran gemen t
Ave rage ac tu al of u su al h ou rs worke d pe r we e k or ye ar, sh are of involu ntary part- time e mployme n t, sh are of worke rs with e xc e ssic e or u n soc ial h ou rs of work, share of worke rs with sh ort- te rm f le xibility over workin g time
〇
Job se c u rity Share of te mporary worke rs, sh are of worke rs with sh ort job te nu re m sh are of self-e mployself-e d workself-e rs
〇 Lif e - lon g le arnin g Share of workin g age popu lation or e mployed pe rson participatin g in e du c ation an d train in g,
sh are of e mploye d pe rsons wh o h ave me re /le ss educ ation than is n ormality require d in the ir oc c u pation
〇
Saf e ty an d h e alth at work Oc c u pation a iju ry rate , occ u pation al dise ase c on trac tion rate, stre ss at work, sh are of worke rs with h igh e xposu re to ph ysic al h e alth risk fac tors
〇
Work organ isation and c on te nt Subje c tive in dic ators of au ton omy at work, work in ten sity, workers se lf - asse ssmen t of th e e xte nt to wh ich th e y do a u se f ul work, satisfaction with type o f work in pre se n t job
▲
Workplace re lation sh ip Subje c tive in dic ators of re lation sh ips with c olle agu e s an d su pe rvisors, disc rimin ation , h arassme n t
〇 Soc ial se c u rity syste m Soc ial se c urity c ove rage
U ne mployme n t in su ran c e an d oth e r c ash in c ome su pport
u n e mployme n t in su ran c e c ove rrage m re plac e me n t rate, ben e f ic iarie s of c ash in c ome su pport
〇
Family frie n dly polic y En titlemen ts to mate rn ity/pare n tal le ave , an n u al le ave , c h ildcare f ac ilitie s, e mploymen t situ ation of moth e rs of you n g ch ildre n
〇
Pe n sion Pen sion c ove rage 〇
H ealth in su ran c e He alth in su ran c e c ove rrage , e mploye e s with suppleme n tal medic al in su ran c e plan, share of e mploye e s e n titled to sic k le ave s
〇
Works Indexとの重な り 〇 あり、▲ 参考値あり、無 該当な し
Ⅲ-2.構造,内容,計測と尺度
Index は複数の Indicator から構成される。 Works Indexの構成(Sub Index, Indicator)と
その内容は,図表3の通りである。以下,各Index,
Indicatorの内容を説明する。なお,本節は,リク
ルートワークス研究所(2016)巻末「Indexの作
図表3 Works Index を構成する Index と Indicator
I 就業の安定 Security (安定性)
III ワークライフ バランス Work Life Balance
(継続性)
IV 学習・訓練 Development
(発展性)
V ディーセント ワーク Decent Work
(健全性) II生計の自立
Self-living (経済性)
Index
・就業している、未就業者でも就業意欲がある ・雇用保険に加入・受給している
・無業期間が短い ・雇用継続の可能性が高い
Indicator
・自分の労働所得で自分の生活を成り立たせている ・自立者の平均所得からの乖離が少ない
・残業時間がない、短い ・休暇が取得できている
・出産・育児や介護などで離職しなくてよい ・勤務時間や場所の自由度が高い
・難易度の高い、多様なタスクの仕事が任されている ・OJTの機会がある
・Off-JTの機会がある ・自ら学んでいる
・仕事量や負荷が適切である ・公平・平等な職場である
・ハラスメントがなく人間関係が円満である ・労働者の権利が担保されている ・安全な職場で本人も健康である
ⅰ就業の安定
<概念>
「就業の安定」では,就業の「安定性」を評価
している。「安定性」とは,就業の実態からそれが
継続している,または,継続が期待できる状態を
指す。
<Indicator>
(1)就業している,未就業者の就業意欲がある
①就業状態・就業意欲 [対象:全員]
すべての人が,なんらかの形で就業状態にある
ことが望ましい。昨年 12 月時点での就業状態に
ついて,就業,求職活動の有無,就業希望の有無
の4つに分ける。未就業であっても,求職活動し
たり,就業を希望したりしている状態をより高く
評価し,指標化する。
具体的には,最大で100,最小で10に得点化
するために,2015年12月の就業状態で下記の点
数Xをつけて,(X-10)/90*100で基準化した。非
労働力でも就業希望があれば高く評価する。
・就業 100
・失業(未就業で,求職活動をした) 50
・非労働力・就業希望あり 30
・非労働力・就業希望なし 10
(2)雇用保険に加入・受給している
②雇用保険の加入・受給状況[対象:全員]
雇用保険の給付額は前職の勤続期間に依存する
ため,雇用給付の受給期間は,前職の雇用保障が
継続している状態ともいえる。この意味において,
就業しているとしても,雇用保険に未加入の場合
には,就業の安定性を満たしているとは必ずしも
いえない。
2015年12月時点で,雇用保険に加入・受給で
あれば100,それ以外を0とした。
(3)無業期間が短い
③2015年の各月の就業状況 [対象:全員]
1 年間を通して,継続的に就業できたか否かを
評価する。1週間のうちの何日,12カ月のうちの
何カ月,就業状態にあったかを指標化する。就業
の安定の観点からは,1年間を通して働けたこと
は高く評価できるが,フルタイムで年中働くこと
には,働き過ぎという負の側面もある。この点に
関しては,ワークライフバランスIndexで評価す
る。
2015 年の各月の就業状況を以下のように評価
た。
・主に仕事をしていた(原則週5日以上勤務)6
・主に仕事をしていた(原則週5日未満勤務)5
・通学・家事などのかたわらに仕事 4
・仕事を休んでいた 3
・仕事を探していた 2
・どこにも勤めていない 1
④転職入職者の無業期間 [対象:全員]
転職は,離職期間を伴うことがある。就業の安
定の観点からは,転職時の無業期間は短いほうが
望ましい。昨年1年間で入・転職した人の無業期
間を指標化する。
2015年の1年間における継続就業を100,継続
未就業または12月時点の未就業者を0とし,2015
年間の転職入職者は,前職からの現職までの無業
期間を対数変換などを施し,無業期間が0カ月は
100,最大の月数は0となるようにスコアをつけ
た。
(4)雇用継続の可能性が高い
⑤雇用継続の可能性 [対象:全員]
有期雇用の場合,(無期雇用の)正社員に転換し
たり,雇用契約を更新したりすることで,就業は
安定する。過去1年間で,同じ勤め先の中で,非
正規から正社員に転換した人や,雇用契約を更新
した人を評価する。
就業者のうち,無期雇用,正社員(無期雇用)
への転換者を100,有期雇用のうち雇用契約期間
が1 年以上は100,1年未満やわからないは 50
として,有期雇用の雇用契約期間の長さで評価を
分けている。また,未就業者は0とした。
⑥会社都合による離職 [対象:全員]
働きたい人が働き続けられることが望ましい。
本人の意思を問わない(本人に選択の余地のない)
会社都合(契約期間の満了,定年,会社の倒産・
事業所閉鎖,早期退職・退職勧奨,解雇)による
離職は,就業の安定が損なわれている局面とみな
す。
2015年の離職者のうち,離職理由が「契約期間
の満了」「定年」「会社の倒産・事業所閉鎖」「早期
退職・退職勧奨」「解雇」を0,それ以外(離職を
していないものを含む)を100とした。
<Index>
①~⑥のうち,就業の安定の観点から,就業状態
と雇用保険を重視して,①と②をより高く評価す
るため,以下のウェイト付けをした平均をとるこ
とで,Indexを作成した。
①:②:③:④:⑤:⑥
=4:2:1:1:1:1
ⅱ生計の自立
<概念>
「生計の自立」では,「経済性」を評価している。
「経済性」とは,自分が働いて自分の生活を成り
立たせている状態を指す。
<Indicator>
(1)自分の労働所得で自分の生活を成り立たせ
ている [対象:全員]
本人が働くことによって生活を成り立たせてい
る状態を好ましいとする指標をつくる。一般的に
は,生計は世帯単位で考えられるが,主たる稼ぎ
手との離別・死別といったリスクを伴う。個人調
査である点も考慮して,個人の生計の立て方に焦
点を当てる。本人の収入はもちろんのこと,配偶
者の収入を合わせて自立をしている人もより高く
評価をしている。
2015年の生計の自立度を下記の点数Xで評価
して(X-10)/90*100で基準化した。
・自分の仕事からの収入だけでまかなった 100
・自分や配偶者の仕事からの収入だけでまかなっ
た 90
・自分や配偶者の仕事からの収入だけでは不十分
で,仕事以外からの収入(家賃収入,配当金,
年金,失業給付,育児休業給付など)や預貯金
を切り崩してまかなった 60
供からの援助(住居や食事などの現物の援助を
含む)でまかなった 30
・自分や配偶者の収入だけでは不十分で,公的な
援助(生活保護など。現物の援助を含む)でま
かなった 10
(2)自立者の平均所得からの乖離が少ない [対
象:全員]
労働所得が多いほど,「経済性」が高いことはい
うまでもない。しかし,「経済性」の観点からみる
と,生計を立てるために必要な所得を十分に得ら
れているか否かがより問われるべきである。
たとえば,1人暮らしと親・子どもとの同居で
は,求められる所得レベルも違ってくる。そこで,
本人の労働所得と,本人のみの労働所得で生計を
立てている人の平均所得との乖離を計算する(同
居人数別)。
①本人の労働所得(主な仕事からの収入(年収,
賞与含む)と副業からの収入(労働収入を伴う
仕事,すべての副業からの収入)を足し合わせ
た)の実額,働いていなければ0とする
②同居人員数を5つのグループ(1人暮らし,2
人,3人,4人,5人以上)に分ける
③②の同居人員数別に,本人のみの労働所得で生
計を立てている人の労働所得の平均値を計算
④各人について対数変換した①と③の差分を計
算して,平均所得からの乖離を求める。なお,
所得差2.7倍は1点に相当する。
<Index>
⑴と⑵を足し合わせて,0~100点換算する。合
算値がマイナスになった場合は,生計の自立のス
コアを0とおく7。
ⅲワークライフバランス
<概念>
「ワークライフバランス」では,「継続性」を評
価している。「継続性」とは,無理なく続けられる
働き方を指す。十分な報酬が得られたとしても,
休みがまったくない働き方は,継続性に乏しい。
「継続性」の観点からみると,働く時間や場所を
選べることも望ましい。
<Indicator>
(1)残業時間がない,短い [対象:就業者]
長時間労働は,生活との両立を困難にして,健
康障害リスクも高める。いわゆるフルタイム労働
者(週 35 時間以上勤務)をベースとして,それ
以上に働いている人の労働時間を指標化する。
週当たり労働時間X(副業の労働時間は含まな
い)から就業者に以下の通りスコアをつける。
・週労働時間35時間以下(残業なし) 100
・35時間を超えて55時間未満 10+(55-X)*4.5
・55時間以上60時間未満 10
・60時間以上 0
健康障害リスク(過労死)の閾値として,月80時
間(週労働時間55時間),月100時間残業(週労
働時間60時間)を考慮している。
(2)休暇が取得できている [対象:就業者]
適度に休みをとれている状態とは,法定または
所定の休日(土・日・祝日)やあらかじめ決めた
休日に休めること,あるいは,休みたいときに休
むことができる(有給休暇の取得)ことである。
下記①,②の休暇の取得状況について指標化し
単純平均をとる。
①法定または所定の休日(土・日・祝日),あらか
じめ決めた休日
・すべて休暇がとれた(100%) 100
・おおむね休暇がとれた(75%程度) 75
・おおよそ半分は休暇がとれた(50%程度) 50
・少ししか休暇がとれなかった(25%程度) 25
・ほとんど休暇がとれなかった(数%程度) 0
②有給休暇取得率
・すべて休暇がとれた(100%) 100
・おおむね休暇がとれた(75%程度) 75
・おおよそ半分は休暇がとれた(50%程度) 50
・少ししか休暇がとれなかった(25%程度) 25
・ほとんど休暇がとれなかった(数%程度) 10
(3)出産・育児や介護などで離職しなくてよい
[対象:就業者]
妊娠・出産などのライフイベントをきっかけと
して,離職を余儀なくされる人がいる。「ワークラ
イフバランス」の観点からは,どのようなライフ
イベントであっても,その前後で就業状態が維持
されて,生活との両立が果たされることが望まし
い。
2015年に退職した人の離職理由のうち,「自分
の身体的なけがや病気」「自分の精神的な病気」「結
婚」「妊娠・出産」「育児・子育て」「介護」の人を
0,それ以外(就業,未就業を含め)を100とし
た。
(4)勤務時間や場所の自由度が高い [対象:就
業者]
勤務する日・勤務時間・働く場所を柔軟に選ぶ
ことによって,仕事と生活を両立させやすくなる。
勤務における柔軟性は「継続性」を高める。
そこで,主な仕事の勤務日,勤務時間,働く場
所のそれぞれについて,本人が自由に選ぶことが
できたかどうか,以下のスコアをつけ,三つの変
数の単純平均を算出した。
・あてはまる 100
・どちらかというとあてはまる 75
・どちらともいえない 50
・どちらかというとあてはまらない 25
・あてはまらない 0
<Index> Indicator⑴~⑷の単純平均(同等ウェイト)か ら算出する。 ⅳ 学習・訓練 <概念> 「学習・訓練」では,「発展性」を評価する。今 の働き方を続けることによって,次の仕事の展望 を開くことができるのか。「発展性」とは,将来の 就業につながる現在の学びの状態を指す。職場で の仕事を通じて,あるいは,職場を離れた研修や 自己啓発に対する取り組みの有無を把握する。 <Indicator> (1)難易度の高い,多様なタスクの仕事が任さ れている[対象:就業者] どんなにたくさんの仕事をこなしても,単調で同 じレベルの仕事の繰り返しでは,将来の就業につ ながらない。「発展性」の観点から,難易度の高い (未経験の)仕事や,多様なタスクの経験を評価 する。 2015 年に担当していた仕事のレベルとタスク の性質を考慮して,下記の①を基準に②の点数を 合計した後,0~100点に換算する ①仕事のレベルアップ:担当している仕事は前年 (2014年)と比べてレベルアップしたか ・大幅にレベルアップした 5
・少しレベルアップした 4
・同じぐらいのレベルだった 3
・少しレベルダウンした 2
・大幅にレベルダウンした 1
・前年(2014年)は働いていなかった 0
②タスクの性質:2015年の仕事において,以下の
それぞれについて「あてはまる」「どちらかという
とあてはまる」を回答した場合に1を①に加算す
る。
・単調ではなく,様々な仕事を担当した
・業務全体を理解して仕事をしていた
・社内外の他人に影響を与える仕事に従事してい
た
・自分で仕事のやり方を決めることができた
(2)OJTの機会がある [対象:就業者]
就業者は多くの時間を職場で過ごす。仕事の実
務を通じた学び(OJT)の有無は,本人の能力開
発において極めて重要である。学びには,体系的
なプログラムに基づくものもあれば,周囲を観察
して模倣するものもある。OJTの実態は段階的に
術を習得する機会の有無について,以下のように
スコアをつける。
・一定の教育プログラムをもとに,上司や先輩等
から指導を受けた 100
・一定の教育プログラムにはなっていなかったが,
必要に応じて上司や先輩等から指導を受けた
75
・上司や先輩等から指導を受けてはいないが,彼
ら(他の人)の仕事ぶりを観察することで新しい
知識技術を身に付けた 50
・上司や先輩等から指導を受けてはいないが,マ
ニュアルを参考にして学んだ 25
・新しい知識や技術を習得する機会は全くなかっ
た 0
(3)Off-JTの機会がある [対象:就業者]
新しい知識や技術を習得するために,通常の業務
を一時的に離れて,社内外で,教育・研修を受け
ることもある(Off-JT)。ただし,Off-JT は,就
業者本人の意思だけでなく,勤め先の取り組みに
依存する。そもそもOff-JTの機会があるか否か,
ある場合には,それを受けたか否かを識別する。
通常の業務を一時的に離れた,社内外での教育・
研修などを受ける機会の有無により下記のように
指標化する。
・1年間に合計で50時間以上 100
・1年間に合計20~49時間以内受けた 100×(5/6)
・1年間に合計10~19時間以内受けた 100×(4/6)
・1年間に合計5~9時間以内受けた 100×(3/6)
・1年間に合計5時間未満受けた 100×(2/6)
・機会はあったが,受けなかった 100×(1/6)
・機会がなかった 0
(4)自ら学んでいる(自己啓発) [対象:全員]
「発展性」を高めるためには,職場で学ぶ機会
を得るだけでなく,自ら学ぶことも欠かせない。
自己啓発の取り組みやふだんの学習活動から,本
人の「発展性」を評価する。
自己啓発(自分の意思で,仕事に関わる知識や
技術の向上に取り組むこと)を2015年1年間に
行った人を50,行わなかった人を0とし,以下の
学習活動をした人については実施数×(50/7)を加
えて指標化する。
学習活動:「学校に通った」「単発の講座,セミ
ナー,勉強会に参加した」「通信教育を受けた」「e
ラーニングを受けた」「本を読んだ」「インターネ
ットなどで調べものをした」「詳しい人に話をきい
た」
<Index>
Indicator⑴~⑷の単純平均として表される。過
去1年間に就業したことのある人を集計対象とす
るが,自己啓発のみ未就業者を含む。
ⅴディーセントワーク
<概念>
「ディーセントワーク」では,「健全性」を評価
する8。「健全性」とは,最低限保障されるべき就
業条件を満たしていることを指す。適切な仕事量,
公平な処遇,ハラスメントがない等,働きがいの
ある仕事に取り組めているか否か,以下の5つの
Indicatorを用いて評価する。
<Indicator>
(1)仕事量や負荷が適切である [対象:就業者]
仕事に追われている状況は,働きがいをもって
仕事に取り組むことができない。適切な仕事量を
こなしていたか否かを指標化する。
(2)公平・平等な職場である [対象:就業者]
性別・年齢・国籍・障がいの有無,あるいは,
雇用形態の違いによって,不公平な処遇を受ける
ことは,「健全性」の観点からみて決してあっては
ならないことである。
(3)ハラスメントがなく人間関係が円満である
[対象:就業者]
ハラスメントがなく,人間関係が円満なことは,
仕事を進めるために,職場が満たすべき最低限の
(4)労働者の権利が担保されている [対象:就
業者]
労働紛争が生じた場合,その解決手段が確保さ
れていることが望ましい。ただし,経営者や自営
業者には,あてはまらない。
⑴~⑷は下記の質問に対して,「あてはまる」を
100,「どちらかというとあてはまる」を75,「ど
ちらともいえない」を50,「どちらかというとあ
てはまらない」を25,「あてはまらない」を0と
して指標化する。質問は以下の通り。
(1)処理しきれないほどの仕事があふれていた
⑵性別・年齢・国籍・雇用形態による不利益を
被っている人を見聞きしたことがあった
⑶パワハラ・セクハラを受けたという話を見聞
きしたことがあった
⑷労働者の利益を代表して交渉してくれる組織
がある,あるいは,そのような手段が確保され
ている,を反転して利用する。
(5)安全な職場で本人も健康である [対象:就
業者]
心身の健康を損ねるおそれのない仕事は,「健全
性」が高い。安全と健康は,「ディーセントワーク」
の前提である。ただし,心身が健康であるがゆえ
に,危険な仕事にも取り組めるという面もあり,
安全と健康が単純には両立しない点に留意する必
要がある。
①職場の状況と②本人の健康状態でそれぞれス
コアを算出し,掛け合わせて最大を100,最小が
0になるように変換した
①職場の状況
(A)「身体的な怪我を負う人が頻繁に発生した」
と(B)「ストレスによって精神的に病んでしまう人
が頻繁に発生した」のそれぞれに対して,「あては
まる」=1,「どちらかというとあてはまる」=2,
「どちらともいえない」=3,「どちらかというと
あてはまらない」=4,「あてはまらない」=5とし,
(A)と(B)の単純平均をとる。
②本人の健康状態
「頭痛やめまいがする」「背中・腰・肩が痛む」「ひ
どく疲れている」「気がはりつめている」「ゆうう
つだ」に対して,「いつもあった」=1,「しばしば
あった」=2,「少しあった」=3,「ほとんどなかっ
た」=4,「全くなかった」=5 とし,それぞれの指
標の単純平均をとる。
<Index>
Indicator⑴~⑸の単純平均して,Indexを算出
する。
Ⅲ-3.基準化,ウェイトと集計
すでに述べた通り,Indicatorには,選択肢で回
答が得られるものもあれば,連続変数で計測され
るものもある。これらを集計してIndexを作成す
るために,基準化(standardize)して尺度をそろ
えている。いくつかの基準化の方法があるが9,
Works Indexでは,Min-Max法を用いており10,
個人iのカテゴリqにおけるIndex Iは,以下の
通り計算される。
=
この方法を用いることで,0 を望ましくない就
業 状 態 ,1 を 望 ま し い 就 業 状 態 と し て , 各
Indicatorを0~1に基準化して集計可能になる。
また,Z-スコアのように平均値で相対化しないの
で,その合成変数であるIndexの素点についても
評価して議論することができる利点がある。
Indexを構成するIndicator間のウェイトにつ
いては,作成者の意図で重みづけする,ウェイト
を等しくおく,ウェイトを計算するといった方法
がある11 12。Works Indexでは,就業の安定では,
安定性そのもののIndicator のウェイトを重くし
ており,ほかのIndexは均等ウェイトを用いた。
また,個人ごとに計算されたIndexを属性別(性
別・年齢階層別など)に集計する際には,母集団
構成を反映するように,サンプリングウェイトを
Ⅲ-4.Indicatorの検証
上述の手続きにより計算されたIndicatorは図
表4の通りであった。
就業の安定と生計の自立は,未就業者を含んで
いるため,サンプルサイズ(ウェイトバック前)
は4万7109人と大きく,ほかのIndicatorは,
昨年1年間で就業したことがある3万8704人を
対象としている。平均値をみると,会社都合によ
る離職や出産・育児・介護による離職がない場合
はそれぞれ 97.1 点,97.6 点とスコアが高く,
Off-JTの機会がある14.4点,自ら学んでいる(自
己啓発)20.0点とスコアが低い。ただし,それぞ
れのIndicatorは働き方の異なる側面を把握して
いるので,そのスコアを直接的な比較には注意を
要する。
図表4 Indicatorの記述統計量
(ウェイトバック前)
インデ ィケー ター
サンプ ル サイズ
平均値 標準偏差最小値最大値 就業の安定
就業状態・就業意欲 47109 79.5 39.1 0 100
雇用保険の加入・受給状況 47109 43.3 49.6 0 100
2015年の各月の就業状況 47109 73.8 38.2 0 100
転職入職者の無業期間 46110 75.9 42.0 0 100
雇用継続の可能性 47109 69.4 41.3 0 100
会社都合による離職 47109 97.1 16.8 0 100
生計の自立
自分の労働所得で自分の生活を成り立たせている 47109 83.9 24.5 0 100 自立者の平均所得からの乖離 45842 -151.7 230.8 -611.2 160.3 ワー クラ イフバランス
残業時間がない、短い 36541 67.3 30.5 0 100
休暇が取得できている 38704 57.4 26.8 0 100
出産・育児や介護など で離職しなくてよい 38704 97.6 15.3 0 100
勤務時間や場所の自由度が高い 36656 27.5 29.8 0 100
学習・訓練
難易度の高い、多様なタスクの仕事が任されている 38704 62.1 18.9 0 100
OJ Tの機会がある 38704 29.8 35.4 0 100
Of f-J Tの機会がある 38704 14.4 25.9 0 100
自ら学ん でいる(自己啓発) 38704 20.0 26.9 0 100
デ ィー セントワー ク
仕事量や負荷が適切である 38704 60.4 28.6 0 100
公平・平等な職場である 38704 76.9 26.5 0 100
ハラスメ ントがなく人間関係が円満である 38704 71.2 30.7 0 100
労働者の権利が担保されている 38704 30.3 31.3 0 100
安全な職場で本人も健康である 38704 51.3 21.8 0 100
もう一つの関心は,それぞれの Indicator が
Index としての意味のかたまりを成しているか,
という点である。これを確認するためには,たと
えば,すべてのIndicator に主成分分析や因子分
析を施して,関連のあるIndicatorをグループ化
する方法がある。
ただし,前述の通りIndexを構成するIndicator
として何を用いるかは,作成者の意図による。
Works Indexの場合,たとえば,ワークライフバ
ランスの「出産・育児や介護などで離職したかど
うか」というIndicatorは,「就業の安定」Index
との相関が高いことは明らかであり,ディーセン
トワークの「労働者の権利が担保されている」は,
雇用者と自営業者で異なり,それは「就業の安定」
などのIndexとも関わりがあるだろう。このよう
に,IndicatorをIndexごとのかたまりとして,
統計手法で厳密に分けることは,定義上できない。
こ う し た 限 界 を 踏 ま え た う え で ,Index と
Indicator の構成の妥当性を確認するために, Indicatorを主成分分析した。因子分析ではなく,
主成分分析を用いるのは,IndexはIndicatorの
集まり(単純平均など)として線形結合で計算さ
れる合成変数であることから,主成分分析するこ
とで,IndicatorのIndexに対する寄与も同時に
みることができるからである。上述の通り,ほか
のIndexとの高い相関が予想されるIndicatorを
除いたうえで,主成分分析をした結果は,図表5
の通りであった。
図表5 Indicatorの主成分分析
第1主成分第2主成分第3主成分 第4主成分第5主成分第6主成分 雇用保険の加入・受給状況 0 . 2 5 6 0 .15 0 -0 .013 0 . 4 8 5 -0 .20 5 -0 .152 2015年の各月の就業状況 0 . 3 6 9 0 .29 1 -0 .237 - 0.0 23 0 .21 6 -0 .090 転職入職者の無業期間 0 . 2 5 0 0 .25 9 -0 .219 - 0.1 18 0 . 5 3 5 -0 .153 雇用継続の可能性 0 . 2 1 5 0 .21 9 -0 .111 - 0.2 56 -0 .14 4 0 .195 自分の労働所得で自分の生活を成り立たせている 0.1 65 0 .18 4 -0 .118 0.0 66 -0 .06 6 0 . 8 3 4 残業時間がない、短い - 0.3 32 -0 .11 3 0 .168 0 . 2 4 0 0 . 4 1 1 0 .031 休暇が取得できている - 0.0 26 0 .16 6 0 .119 0 . 6 3 8 0 . 2 9 3 0 .143 勤務時間や場所の自由度が高い - 0.2 16 -0 .19 4 0 .093 - 0.3 41 0 . 4 2 7 0 .241 難易度の高い、多様なタスクの仕事が任されている 0.2 39 0 .21 7 0 .203 - 0.1 36 0 . 3 1 6 -0 .195 OJ Tの機会がある 0.1 70 0 .00 6 0 . 5 2 3 0.0 62 -0 .03 7 -0 .031 Off -J Tの機会がある 0.2 10 0 .06 6 0 . 4 8 8 - 0.0 66 -0 .04 5 0 .103 自ら 学ん でいる(自己啓発) 0.1 79 0 .02 8 0 . 4 9 4 - 0.1 62 0 .01 7 0 .105 仕事量や負荷が適切である - 0.3 51 0 . 2 6 0 -0 .002 0.1 10 0 .08 7 0 .122 公平・平等な職場である - 0.2 44 0 . 4 3 7 0 .121 - 0.0 60 -0 .18 8 -0 .184 ハラスメントがなく人間関係が円満である - 0.3 03 0 . 4 1 0 0 .076 - 0.1 50 -0 .12 7 -0 .111 安全な職場で本人も健康である - 0.2 61 0 . 4 3 2 0 .032 - 0.0 92 -0 .00 3 0 .106 固有値 2.7 21 2 .17 8 1 .719 1.2 41 1 .13 9 0 .924 注)「就業状態・就業意欲」は基準変数。生計の自立インデ ック ス「自分の労働所得で自分の生活を成り立たせている」と「自立者の 平均所得から の乖離」の和である。
第1主成分を構成するIndicatorが,就業の安
定,第2主成分はディーセントワーク,第3主成
分は学習・訓練,第6主成分が生計の自立のかた
まりとなっている。第4,5主成分がワークライフ
バランスを表しているといえそうである。
Ⅳ.
Works Index
の結果
っているのか,その記述統計量や分布を確認する。
Ⅳ-1. 結果
Indexの分布は,図表6の通りであった。分布
の形状は,母集団の分布に加えて,Indicatorの取
りうる値が離散的か連続的かにも依存する。
就業の安定は,100点にフルタイム社員,80点
付近にパート・アルバイト社員,20点以下に未就
業者が分布しており,母集団を概ね反映した形と
なっている。
生計の自立は,60点以上は,自立度が高い個人
の平均からの偏差の分布になっているといえ,30
点付近の分布の山は,自立度が低く,相対的な所
得も低い個人,0点は,自立度が低く,働いてい
ない人を示している。
ワークライフバランスやディーセントワークの
分布は,左裾がやや長く,学習・訓練は,職場で
の学びや自己啓発が低調である個人が 20 点付近
に集中していることを示している。
こうしたIndexごとの分布の形状の違いは,そ
れぞれの Index の特徴を表すとともに,異なる
Indexを単純に比較したり,平均値のみで議論し
たりする際には留意が必要であることを示唆して
いる。
図表6 Index の分布
0 10 20 30 40 %
0 20 40 60 80 100
就 就 の 安 安
0 10 20 30 40 %
0 20 40 60 80 100
生 生 の 自 自
0 10 20 30 40 %
0 20 40 60 80 100
ワ ワワ ワ ワ ワ ワ ワ ワ ワ
0 10 20 30 40 %
0 20 40 60 80 100
学 学 ・訓 訓
0 10 20 30 40 %
0 20 40 60 80 100
デデ ワ デ ワ デ ワ ワワ
次に,全体および性・年齢階層別のIndexの値
をみてみる(図表7,8)。
Index の多くのスコアが60点前後とバランス
している中で,学習・訓練だけが30.6とほかに比
べて極端に低い。この背景は,リクルートワーク
ス研究所(2016)において考察を行っているが,改
めて述べると,仕事を通じて学ぶ機会が限定的で
あるだけでなく,自己啓発など自らの意志で学ん
でいないことである。企業が仕事を通じて学習・
成長する機会を作ることは企業の意志決定による
ところが大きく個人ではどうしようにもないだけ
でなく,自己啓発については業務で忙しく自ら学
ぶための時間が取れないという見方もあるため,
学習・成長のスコアが上がることは容易でないと
想像される。しかし,過去の歴史が示すように同
じ職業においても技術革新などによって求められ
るスキルが異なってくるため,学習・成長を怠っ
ていては将来にわたって生き生きと働き続けるこ
とが困難になることを示唆している。
58.2 51.6 63.0 30.6 58.5 0 20 40 60 80 100 I 就業の安定
II 生計の自立
III ワークライフ バランス IV 学習・訓練
V ディーセント ワーク
図表8 性・年齢階層別 Index
集計 対象者数
I 就業の安定
II 生計の自立
III WLB
IV 学習・訓練
V DW
47,109 58.2 51.6 63.0 30.6 58.5 男性全体 24,139 68.5 60.7 59.9 31.1 59.1 15~24歳 1,191 75.7 62.5 62.0 39.3 57.8 25~34歳 4,453 85.1 71.7 57.9 37.3 56.4 35~44歳 5,536 87.3 75.9 56.6 31.6 56.1 45~54歳 4,798 86.5 76.4 57.6 29.4 58.0 55~64歳 5,332 76.3 67.1 62.0 27.5 62.0 65歳以上 2,829 31.7 32.1 69.5 26.4 66.2 女性全体 22,970 48.7 43.3 67.2 29.9 57.9 15~24歳 2,748 69.8 59.2 63.9 39.0 54.9 25~34歳 4,253 68.0 58.1 64.5 32.5 56.2 35~44歳 5,308 65.2 54.7 67.2 29.0 56.5 45~54歳 4,658 68.7 56.0 67.4 29.2 56.7 55~64歳 5,012 53.3 45.4 68.8 28.6 59.8 65歳以上 991 20.4 23.7 71.0 24.9 64.0 注)集計対象者数は全体であり、各インデ ック スの集計対象者数は有効回答数によって異なる。
女 性 男 性
全 体
性・年齢階層別では,女性,高齢者の生計の自立,
壮年男性のワークライフバランスのスコアが相対
的に見て低く,こうした状況の改善が必要である
ことが可視化されたといえる。
Ⅳ-2. 妥当性
上述の通り,Indexが計算されて,属性別に解
釈可能となった。このIndexの特徴をもう少し掘
り下げて,その妥当性を検証する。
図表9に,Index間の相関を示す。五つのIndex
は,望ましい働き方を指標化したものである。就
業の安定と生計の自立は,強い相関がある一方,
ワークライフバランスは,就業の安定,生計の自
立,学習・訓練と負の相関がある。ワークライフ
バランスのために,これらを得る機会を諦めると
いうトレードオフがみられる。また,学習・訓練
とディーセントワークの間にも負の相関がみられ
た。仕事に対して強くコミットしなければ,学習・
訓練の機会が得られないということだろう。
Works Index は,客観的な尺度にこだわった。
では,そうして作成された望ましい働き方のベク
トルを持ったIndexは,就業者の主観的な満足度
と整合的であろうか。
さまざまな満足度と Index との相関をみると
(図表10),統計的に有意に正の相関がみられた。
それぞれのIndexが,就業者の主観的満足度から
みて,望ましい働き方を代理していることを示し
ている1314。
以上から,Indexの関係は,トレードオフのあ
る現状の働き方を説明するうえで妥当であり,就
業者の満足度とも整合的であるといえる。
図表9 Index 間の相関
就業の安定 1
生計の自立 0.740* 1
WLB -0.231* -0.215* 1
学習・訓練 0.144* 0.097* -0.056* 1
DW 0.005 0.013* 0.189* -0.040* 1
就業の安定 生計の自立 WLB 学習・訓練 DW
図表 10 Index と満足度の相関
仕事そのも のに満足していた 0.039* 0.037* 0.163* 0.212* 0.240* 職場の人間関係に満足していた 0.049* 0.022* 0.143* 0.171* 0.282* 仕事を通じて、「成長している」という実感を持っていた 0.059* 0.055* 0.079* 0.361* 0.089* 今後のキ ャ リアの見通しが開けていた 0.083* 0.112* 0.083* 0.268* 0.078* これまでの職務経歴に満足していた 0.051* 0.107* 0.121* 0.196* 0.162* 生き生きと働くことができていた 0.032* 0.035* 0.173* 0.221* 0.252* 注)*は有意水準5%
就業の安定 生計の自立 WLB 学習・訓練 DW
Ⅴ.おわりに
本稿では,日本における働き方を計測・評価す
る指標として開発された「Works Index」につい
て,その背景,コンセプト,作成手順を示して,
Indexの概要を説明した。
Works Indexは,指標を用いて働き方を多面的
に計測して評価するという世界的な潮流の一端を
担うものであり,五つの観点(就業の安定,生計
の自立,ワークライフバランス,学習・訓練,デ
ィーセントワーク)は先行研究とも整合的である
ことが確認できた。日本の働き方を総合的にみる
と,五つの観点のうち学習・訓練以外については
ある程度バランスしているといえるが,学習・訓
練のスコアがほかに比べて極端に低く,課題であ
ることが可視化できた。また,Indexの一部には
ト レ ー ド オ フ の 関 係 に あ り , 本 稿 で 提 示 し た
Works Indexにより,働き方の多元性を改めて確
認できたことが示された。一方,Indexの値の単
純比較に対する留意などが促された。
Works Indexを算出するにあたり活用した調査
である「全国就業実態パネル調査」は,毎年1月
に継続して調査を行う予定であり,Works Index
の経年変化を観察することが近い将来に可能とな
る。政府は日本の働き方を改善しようとさまざま
な施策を講じているが,こうした施策がどれだけ
効果を表しているかも Works Index の経年変化
によって明らかになるであろう。今後,日本の働
き方が Works Index で定義した方向で望ましい
状況に向かっているのか否かを評価することが期
待される。
最後に,Works Indexには,さらなる精緻化や
工夫の余地があり,時代の流れを反映した項目を
取り入れるなどの柔軟な対応も必要である。その
も生じる。それらの方針・具体策については,今
後の課題としたい。
謝辞
Works Indexの開発にあたり,ヒストリカルデザイン株式会社田
窪正則氏に多大なるご支援・ご助力を賜った。記して心よりお礼申 し上げたい。
注
1「全国就業実態パネル調査」の詳細については,
https://www.works-i.com/surveys/panel-surveys.htmlを参照され たい。
2主観的なアプローチには,(1)主観的満足度を尋ねる,(2)よい仕事 の構成要素・優先順位を尋ねるものがある(European Parliament
(2009))。これらは,働き手の厚生評価において有益ではあるが,
Green (2006),Munoz de Bustillo et al. (2011),Green and
Mostafa (2012)は,主観的評価は,必ずしも仕事の質を構成せず,
個人特性や適応など別の要素からの影響も受けるとして,客観ベー スの指標を選択している。
3なお,主観的な評価や判断を伴う設問(自律性,承認,仕事満足 度,成長実感,キャリアの見通しなど)は,参考として,調査票に 含めるが,指標としては公表しない。これらの設問は,先行する国 際調査との比較可能性を考慮して取捨選択する。
4以下のIndexと比較した:European Job Quality Indicator (2008),
Indicators of Job Quality (Canada 1998), Subjective Quality of Working Life Index (Czech 2009), Quality of Employment Indicators used for the nonprofit sector in Canada (2003), Deutscher Gewerkschaftsbund (DGB) Good Work index, Quality of Employment Indicators of the European Foundation, Quality of Employment Indicators in Canada by Brisbois (2003), Quality of Employment Indicators developed by CPRN, Job Quality Index (JQI) by EUTI, The Laeken indicators of job quality (2008), United Nations Economic Commission For Europe (2010), OECD (2013) How's Life (well-being in the workplace: measuring job quality), OECD (2013) How's Life (Indicators of job demands and job resources)。
5Dawis(1991)は,達成感,快適さ,地位,愛他性,安全性,自律
性,Super and Nevill (1989)のValues Scaleでは,能力の活用, 達成,昇進,美的追求,愛他性,権威,自律性,創造性,経済的報 酬,ライフスタイル,人間的成長,身体的活動,社会的評価,危険 性,社会的交流,社会的関係,多様性,働く環境,文化的アイデン ティティ,肉体的安定性,が挙げられている。
6具体的には,以下の5項目の優先順位をつけてもらった:①失業 や未就業の期間が短く,安定的に働けること,②自分でやりくりし ていけるだけの収入を仕事で得られること,③仕事と生活を両立し て,健康的に働けること,④仕事に関わる能力開発や成長につなが る学びの機会があること,⑤不当な差別やハラスメントがなく,最 低限保障されている就業条件が満たされていること。
7世帯人数別平均所得からの乖離で評価しているため,平均所得の 上昇それ自体は,Indexの改善に必ずしもつながらない点に留意す る必要がある。
8 一般的に,ディーセントワークの要素には,収入や労働時間等も 含まれている(たとえば,ILOのディーセントワークの測定
http://www.oit.org/public//japanese/region/asro/tokyo/feature/201 0-10.htm)。Works Indexでは,労使関係や安全衛生など,ディー セントワークを狭義のものとして捉えている。
9順序(ランキング),標準化(zスコア),参照点からの距離,カ テゴリ尺度などがある。
10Min-Max法は,一般的な手法で,国連開発計画の「人間開発指
数」などでも用いられている。
11ウェイトのつけ方は,各indexを線形結合することがどの程度可 能かという観点から,さまざまな手法(主成分分析・因子分析,
Benefit of the doubt,観測不能成分モデル,階層分析法,コンジ ョイント法など)がある。それぞれの特徴は,OECD(2006)
Table.24に詳しい。
12ウェイトの設定においては,作成者の意図とその妥当性が重要で ある。たとえば,ETUI(2008)は,賃金のIndexの二つのIndicator (従業員一人当たりの名目報酬と等価所得の中央値の60%を下回 る,就業貧困割合)のウェイトを70:30とおいている。 13就業の安定,生計の自立は,ほかのIndexに比べて,満足度と の相関係数が大きくない。ハーズバーグの二要因理論でいえば,こ れらの二つのIndexは衛星要因であり,ほかの三つのIndexは, 動機付け要因(満足に関わる要因)と解釈できるかもしれない。 14 Index間の相関係数そのものは大きくない。これは,Indexがさ まざまIndicatorから構成されることに起因する。各Indexがどの 程度まで個人属性などで説明されうるか,それぞれのIndexを被 説明変数とする重回帰分析を行い,Indexのconfounder(交絡要 因)を探ることは,Indexの妥当性の検証につながるといえる。
参考文献
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